先日発売された『酒供養~縁歌バージョン』、もうお聞きいただけましたか?
『酒供養』、『男の祭り酒』、いずれも冷酒片手に、ついつい「もう一杯!」とお酒がすすみそうですよね。ほろ酔い気分になったところで、今宵は吉岡治先生とさゆりさんが紡いできた、たいせつな縁について、こぼれ話をば。
これまで発表されてきた主な吉岡治作品を数えてみると、シングルやアルバムだけでなく、ステージ音楽を含め優に100曲を超える楽曲です。『波止場しぐれ』、『大阪つばめ』、『天城越え』などターニングポイントとなったヒット曲はもちろんのこと。
『滝の白糸』、『越前竹舞い』、『飢餓海峡』、『一葉恋歌』など石川さゆりの「歌芝居」の世界観をともに創り上げてきたことも見逃せません。さゆりさんはこう振り返ります。
「原作となる文学作品とは一味も二味も違った、吉岡先生にしか描けない女性像というものがやはりあるんです」
さゆりさんにとって、作家、作詞家、歌手の表現が拮抗する歌創りの三つ巴は、かけがえのない体験だったそう。歌詞の行間から立ち上がってくる女性像が「吉岡オリジナル」であればあるほど、歌手石川さゆりは「どう表現しようかと、やりがいを感じた」とも。
こうして互いにインスパイアし合いながら100以上の楽曲を生み出だしていくなかで、
「先生、また私に曲を書いてください」と何度もお願いできたのは、やはり全幅の信頼を寄せる吉岡先生だからこそ。
晩年、「さゆりにはこれまで、いっぱい曲を書いてきた。もういいだろう?」と渋る吉岡先生を谷中へ連れだし、だんだん坂に並んで腰掛け、一緒に見た夕焼けや猫のあの日の光景が『夕焼けだんだん』になったことはファンの間では有名なエピソードです。
2月20日(水)にリリースされたシングル「酒供養」に収録された『もういいかい』はその吉岡治先生が「この歌は発表しなくてもいい。どうしてもいい、好きにしてくれればいい」とさゆりさんに託された最後の一篇でした。
曲がついたその日に、さゆりさんからの報告を受けた吉岡先生が天国へ旅立たれたのは、なんとその翌日のこと……。
『かくれんぼ』でデビューしたさゆりさんへ贈る最後の詞が『もういいかい』だなんて。
「もういいよ」のフレーズを聞くたびに、熱いものがこみあげてきます。